アクセシビリティの祭典2019 accfes 参加レポート
皆さんこんにちは。株式会社プレイドでデザインエンジニアをやっております大山です。
5/15 に神戸市にて開催されていたアクセシビリティの祭典に参加してまいりました。今回はその参加レポートになります。
アクセシビリティの祭典とは
以下公式サイトより抜粋になります。
アクセシビリティの祭典は、自治体・企業・制作会社・障害者支援施設などに属する方々、障害を持つ当事者など様々な立場の人が、新しいアクセシビリティ技術に触れて体感できるお祭りです。 毎年、アクセシビリティの普及を世界全体で考える「Global Accessibility Awareness Day (GAAD)」に合わせて 5 月の第 3 木曜日に開催しています。
ソフトやデバイスが多様化する現在・未来のアクセシビリティをご覧いただけるようなアクセシビリティに関するセッションや展示等を通じて、多くの方とアクセシビリティについて語り、考え、学ぶ日にしたいと思っております。
今年で 5 回目、そして令和最初の開催となりました。
今回のテーマにある「インクルーシブ」とは、直訳すると「包括的」という意味で、「人間の様々な多様性を包括して社会から排除されていた人も一緒に参加できるようにする」という意味で用いられることがあります。
セッションの発表も YouTube Live での生配信ほか、発言を文字起こしをしてくれるUD トークと、手話通訳といったインクルーシブな対応がなされていました。
UD トークは、もとは1人の開発者が助成金などはなしで趣味で作ったものだそうです。それが今では 400 団体で導入、43 万ダウンロード達成しており、議事録作成などのビジネスツールとして活用されてもいます。
合計 6 名ほどの手話通訳士の方が交代しながらでセッションを通訳していました。簡単な手話を覚えるコーナー(「こんにちは」「ありがとう」「令和」等)もありました。
障害当事者が社会とどう関わっているのかを知れる
セッションでは Web をはじめとするアクセシビリティに関する情報や技術、障害がある人たちはどう課題解決しているのか? といった内容が発表されていました。
セッションのひとつに、NVDAというオープンソースのスクリーンリーダーユーザーが、実際に使っているシーンを交えて「どのような時に使って困ることがあるのか」を紹介していました。
スクリーンリーダーによるバグなのかと思いきや、ブラウザ・ユーザーエージェントによる判定で精密すぎたり、誤認識があったりして理解できない部分がありました。普段よりマークアップは意識してるのですが、使い方を間違うとこうした影響が出るのか、と改めて自戒しました。
中でも印象的だったのが、AdSense による配信広告の中に要素(差し込み)が入り組んでいたことでスクリーンリーダーがうまく読み取ってくれなかったことで、普段あまり意識してなかったのですが、他もそうなってるのだろうか? と気になりました。
またアイ・コラボレーションでは障害当事者の方が実際に業務に勤しむ姿や、どのようにして普段サイトにアクセスしているかの様子、Raspberry Pi で作られたバックモニターでの業務サポートなど、想像上の中だけだった当事者の「社会生活」の一部を見ることができる貴重な時間となりました。
企業とアクセシビリティの取り組みについて
スペシャルセッションとして5つの企業でのアクセシビリティの以下取り組みが紹介されていました。
- freee 株式会社では品質保証の観点で社内ワーキンググループ(主に伊原さん・中根さん)がチェックを通してアクセシブル担保をしている取り組みの紹介
- フォントおじさんこと関口浩之さんが Web フォントとアクセシビリティの観点についての発表
- Amazon Alex「画面付き Echo 端末」のアクセシビリティ機能とスキル開発におけるアクセシビリティ観点の紹介
- 株式会社エクスポート・ジャパン、アルファサード株式会社は企業発でそれぞれアクセシブルなソフトウェア・CMS の紹介
- Yahoo!株式会社では障害当事者(ロービジョン)の方がユーザビリティテストに参加して自社プロダクトを改善した話の紹介
freee 株式会社の取り組みではデザインシステムからアクセシビリティ担保するといった、昨今の Web アクセシビリティ観点でのアプローチが個人的に目に留まり、気になっています。
デザインシステムの設計とアクセシビリティの実現 - Speaker Deck
アルファサード株式会社では経営者視点でアクセシビリティに取り組むことによるメリットについて紹介され、アクセシビリティに取り組む際の大事なお金の話もされていました(内容は時間の都合で一部割愛となりましたが以下資料より確認いただけます)。
その他セッションに登壇しなかった企業でも展示ブースにてアクセシブルな最新技術の紹介がありました。以下はその一例です。
日本マイクロソフト株式会社ではインクルーシブに機能拡張された Xbox Adaptive Controller ほか、Microsoft AI、Windows の最新アクセシビリティ機能や、文字情報をテキストデータに変換して読み上げる Office Lens の紹介。
視覚障害者が使用する白杖に画像解析を合わせて、拡声放送にて周囲の状況や周辺への注意喚起などをしてくれる音声誘導システム。
株式会社アシックスでは、フラット磁気展示を踏むと振動を知らせてくれるシューズ(写真左)と、障がい者が運動し易いシューズ(写真右)の研究展示。
その他にも、バスの降車ボタンをスマホ操作で補佐してくれるアプリ、脳波をキャッチして今の感情を表現してくれるコミュニケーションツール、発達障害の方への Web サービスを作るハッカソンの展示、手を使わずに動かせる車いすなどがありました。
アクセシビリティな未来の課題について
最後は株式会社ミツエーリンクスの木達さんと、クラスメソッド株式会社 の持田さんによる「アクセシビリティの未来を考える」対談セッションでした。
未来について、木達さんからは法律による罰則が無いこと、持田さんは少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を危惧されており、現在の状態から想像しうる未来は明るくはないことを指摘していました。
フロントエンドエンジニアのロードマップとしてアクセシビリティも1つのスキルではあるのですが、これをもってどう解決していくのか・いけるのかといったことは明示されてはいません。 また、日本では法律での明確な罰則がなかったり、障害者差別解消法でも民間企業では努力義務の範疇となっている現状も、アクセシビリティでないことが社会の課題として捉えづらいことにもつながっています。
そうした問題がある中でも、日々少子高齢化は日々進み、生産年齢人口が減っている課題も無視できないものになりつつあります。 国内のマーケット縮小、GDP 低下、それに伴う先進国の中での対応遅れ、公的サービスの低下など、悪循環を断ち切れずにいる状態は続いています。
そうした中で今後必要になってくることに、以下を上げられていました。
- 一人一人がアクセシビリティの重要性についてを理解する
- 多様性に対応できるデジタルコンテンツを作っていく
- アクセシビリティの概念を「Web 以外の」業界にも広げていく
いずれも個々の力だけで解決できる領域ではなく、全体で 1 つずつ見直していかなければならないものばかりでした。 ただ、前回も述べたとおりアクセシビリティ対応は「Start Small, Start Now」の小さな形でも始められる精神のもと、たとえわずかでも行動を起こしていくべきように感じられました。
インクルーシブな体験について考える
弊社では CX(顧客体験)プラットフォームを提供するKARTEを開発していますが、今回のセッションや企業展示ブースを見た上で、インクルーシブな CX とは何だろうかと考えてみました。
いま日本のみならず世界規模で見ても、テクノロジーによって我々の生活は変化してきて、個人や社会のあり方というのも変化してきています。 従来想像し得なかった領域、考え方というものを考えなければならない時代になってきました。
しかしながらアクセシビリティ・インクルーシブ観点において、本来同様に包括すべきところを別のグルーピングに分けて参加できない問題は依然残っていて、どこかで獲得しえるはずだったと層を無意識的に「排除」してしまうことにも繋がりかねません。
ミスマッチ 見えないユーザーを排除しない「インクルーシブ」なデザインへ | キャット・ホームズ, ジョン・マエダ, 大野千鶴 |本 | 通販 | Amazon
そうした「排除」をしてしまわないためにも、最初のセッションに登壇していた青木さんが、インクルーシブな社会を実現するために体験と想像力が必要となる、と説いていたのが印象的でした。
こうした祭典に参加したり当事者と接点を持ちどのような生活しているかを認識・体験し、「もし自分が ○○ な状態だったら?」と想像してみる、それらを念頭において自分たちが行う CX はどこまで届けられているか? を考えてみることがインクルーシブな体験を生むために必要なことに思えました。
また、持田さんが述べていた「Web じゃないプラットフォームや UI は、今度どんどん増えることを意識する」観点から、O2O(オンライン to オフライン)におけるインクルーシブを意識した取り組みをしてみることも十分価値があることだと感じます。
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エクスポート・ジャパン株式会社の QR コードによる音声読み上げのAccessible Codeや、Amazon Echo などの VUI による身体的不自由な人でも扱えるツール、UD トークを用いたオフラインコミュニケーションなど、これからを見据えた CX について考える上でヒントとなり得るものはいくつも転がっていたように思えました。 より様々な「個人」を理解した上で排除なき未来を作っていけるようにしなければ、と感じました。
関連リンク(順不同)
- アクセシビリティの祭典 2019 - Togetter
- アクセシビリティの祭典 2019 に参加 | 覚え書き
- アクセシビリティの未来 についてアクセシビリティの祭典で対談しました
- アクセシビリティの祭典 2019(TAM .inc 安田 学さんによるまとめ)
- 「アクセシビリティの祭典 2019」登壇 – nishimotz の日記
- アクセシビリティの祭典 2019 参加レポート | ダーシマ・ヱンヂニヤリング
ちなみに同日に株式会社 freee にて「春のアクセシビリティー LT&雑談ナイト! #gaad2019_tokyo」も開催され、合計 15 本ものアクセシビリティにまつわる LT が発表されていたようです。こちらも合わせてご覧になってください。